新型インフルエンザ (読売新聞 2005年12月17日)
  A型ウイルスが大変異
     インフルエンザが流行する季節がやってきました。今シーズン、最も恐れられているのは、新型インフルエンザの
     出現です。普通のインフルエンザとの違いは? なぜ怖いのか? 科学の目で探ってみましょう。    
   かぜとは全く別      
     インフルエンザは、最近よりも小さな「ウイルス」という病原体が、体の中に入り込んで起きる病気の一つです。
     熱やせきなど、かぜと症状は似ていますが、全く別の病気です。
     インフルエンザには、ウイルスの形によってA型、B型、C型の3種類があり、日本で冬にはやるのは主にA型です。   
     同じA型でも細かく見ると、たくさんの型があり、人間だけではなく、ニワトリやブタ、アザラシ、クジラもかかります。
     渡り鳥のカモはすべての型にかかりますが、病気になりません。カモのふんからは、よくA型ウイルスが見つかり
     ます。このため、A型ウイルスは、もともとカモなど水鳥の体内にいて、渡り鳥とともに世界中に運ばれると考えれ
     ています。A型を電子顕微鏡で見ると、表面にたくさんのトゲが生えています。

     トゲは2種類。「ヘマグルチニン(HA)」「ノイラミニダーゼ(NA)」と呼ばれています。HAは16種類、NAは9種類あり

     この組み合わせで、かかりやすい動物が変わります。人間がこれまでに、かかるとわかっている組み合わせは、    
     「H1N1(ソ連かぜ)」 「H2N2(アジアかぜ)」 「H3N2(香港かぜ)」 の3種類です。
   免疫ないと流行
     おたふくかぜや、はしかなどの病気に一度かかった人は、二度とかかりません。体が細菌やウイルスの特徴を   
     覚え、再び体に入ってもすぐにやっつける「免疫」ができるからです。また予防注射でも免疫ができます。
     ところが、A型ウイルスは変身の名人です。例えば同じ 「H3N2」 でもウイルスの性質を決める遺伝子が変化す
     る「変異」が、毎年少しずつ起きます。予防注射を毎年受ける必要があるのは、このためです。恐ろしいのは、     
     大きく変異したA型ウイルスが現れることです。 これが「新型インフルエンザ」です。人類のほとんどが免疫を持
     たないので大流行が起きます。1918年ごろに発生し、世界中で流行した新型インフルエンザ 「スペインかぜ」
     は、約6億人がかかり、4000万人以上が死んだとも言われます。        
     世界保健機構(WHO)は昨年、もし新型が流行すれば最悪の場合18億人がかかり、740万人が死ぬ可能性
     あると発表しました。厚生労働省は、日本国内の死者は最悪で64万人にのぼるととしています。     
   「H5N1」警戒
     新型インフルエンザの有力候補は 「H5N1」 という型です。ニワトリがかかる「鳥インフルエンザ」で、2004年
     には日本でも京都などの養鶏場で流行し、何万羽のものニワトリが死にました。もし、ウイルスが変異して強く
     て、人間に簡単にうつる性質を併せ持てば、スペインかぜのような流行が起きるかも知れません。
     1997年、H5N1に感染した患者が、香港で初めて見つかっています。その後、タイやベトナムなどでも患者が
     出ました。WHOによると、今月7日までに世界で135人の患者が見つかり、うち69人が亡くなりました。
     人から人へうつったと考えらる例はごく少数です。しかし、科学者は、例えば鳥の H5N1 と、人間の H3N2
     などのウイルスが、ブタなどの動物の体内で出会い、互いの遺伝子をやりとりしないかと心配しています。
     H5N1 の強さと、H3N2 が持つ人間へのうつりやすさを、両方身につけた新型ウイルスができるかも知れない
     からです。実際中国ではブタから H5N1が見つかっています。
   治療薬足りない
     それでは、新型インフルエンザから身を守るにはどうすればいいでしょうか?手段は二つ。予防注射と薬です。
     ワクチンの開発はかなり進んでいますが、新型を発見してからワクチンができるまで半年ほどかかる見込みで
     す。流行に間に合わないかも知れません。残るは薬です。インフルエンザの治療薬 「タミフル」は、新型インフ
     ルエンザにも効果があるとされます。政府はこの薬を大量に保管する作戦を進めていますがまだ足りません。
     でも、日頃の生活でできる予防もあります。
     「 @人ごみを避ける A手洗いやうがいを心がける Bたっぷり栄養を摂る 」
     当たり前のようですが、専門家の多くは、「これで感染はずいぶん防げます」と勧めています。
     元気に冬を過ごしたいですね。

目次にもどる